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- 2024.01.22 Monday
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私は貴方の髪が大好きだった。
人目見たときにその夢のような煌きに心を奪われた覚えがある。少し色素が薄くて、緩やかな癖のあるその柔らかい髪。ここにある安らぎの証だと思った。きっと貴方はその髪でそっと私を引き寄せた。
前髪を切りすぎた過去の笑い話を聞いた。照れた苦笑いをする目元を伸びた現在の前髪が覆っていた。少し荒れた額を隠すそれは、一時前の輝きをどこかに潜めて、貴方の小さな憂鬱を象徴していた。きらきらと笑いながら、走り出して後ろへ流れた髪は、ただ風も無い曇天に沈んだ。空が泣くか貴方が降るか、どちらが先でも私は驚かなかった。それでも貴方はうっそりと笑顔であり続けた。それは結果的に私を悲しませて、今でも忘れられない記憶となっている。
形の綺麗な小さな頭越しに見た夕日は、柔らかな赤だった。何事もわからずにただ戸惑いながら笑っていたあの頃と同じような色だった。不安を見せたらいけないと必死な私に、確かな安らぎをくれたのは貴方の存在だった。貴方の前で、ありのまま以外の姿でいることの方がずっと難しかった。走り回る楽しさも、人といる幸せも、新たな世界の恐怖も、貴方といると安心して受け入れられた。泣くことも笑うことも、貴方が誰よりも教えてくれた。泣く貴方を抱きしめることが出来るようになったのは、まず貴方を知ることが出来たからだ。
泣くときも笑うときも、私は貴方の傍にいる。少し背の高い貴方へ背伸びをして、長くなった前髪を掻き分けて。大切な貴方の温かくまあるい額へ、友情のキスを。