考え込んでしまうようになった。仕方ないか。
これはとある作品の話であって、同時に私の話でもある。この作品(最近論文とか色々用意してた関係で作品っていう表現使ってるけど、まあ別にここで私が突然言い出すようなことだから、なんかどれかのアニメとかそんな感じです)の言い知れぬ生々しさは、揺らぐ私の心をそっと後へと引っ張る。後ろへ、後ろへ。
奇数は、色々な組み合わせの可能性を許す。私は何にでもなれるから、生々しく切りつけてくる思い出に忍び込んでいく。私は下手物だけど、私を下手物にした人は、感情は、美しいものだった。そのことだけを、どうか、いつまで経っても私自身が忘れてしまわないように。道から逸れて行った私を刺す私自身が、間違えて、悲しく優しい目をしたあの人を傷つけてしまわないように。
時系列に沿って話すのが、やはり楽なんだろうね、自己整理。
どう表現したらいいか分からない、何もかもを壊して組み替えて始め直してしまった関係。神様がいた。私も神様になりたかった。時間も世界も何もかも捧げて良いから、連れ去りたかったし、連れ去って欲しかった。もうどれほど前の話か思い返すことさえ大変なのに、威力を失わない白い顔。あの表情なき表情を、大切に思う人たちから奪い取ってしまわなくては、当時苦しんだ私も貴方も、救われないかもしれない。貴方の柔らかさが、何より大切だった。氷のように硬い顔なんていっそ砕いて壊してしまいたかった。逃げ惑うような牛乳プリンも、貴方を救う神様になるための呪文が分からない私の足掻きだった。
全てを、ほとんど全てを、過去形で書けるようになったことが、微笑ましくもあって、でも、酷く悲しくもある。もう普通に生きてもいいということかもしれないし、もう死んでしまっているということかもしれない。私は神様になりたかった。私の神様を守る為に。もし、もしも本当にもう私なぞに守る手段など無くなってしまう時が来たら、その時は、もう全部やめちゃってもいいかな。
そして、壊れた上に覆いかぶさるように作られた関係(それは、最後に私が壊してしまったときまでだけど)。私、貴方の神様になりたいとも、貴方に神様になってほしいとも、思ったりしなかった。でも、貴方は私の神様に本当によく似ていた。いつか覗きこめなくなったあの色素の薄い瞳を貴方が持っていたから、私は傍へと近付いた。いつか空気を震わせた同じ言葉を貴方が口にしたから、私は遠ざかることを諦めた。別物だけど、よく似ていた。何度そのことに動揺したことか。私を思うあの子が好きな私の表情は、私が好きだった貴方の表情だ。ついついやってしまう顔なのだけど、指摘されるたびに、何とも悲しくなるのは、誰も知らないところで私だけひとりで貴方を引きずっているから。貴方のあの表情好きだったよ、そう言えなかったし、もう言えないから、私は貴方を演じながら自分を失っていく。
最強になりたかったね、と私は一人、誰もいないところへ同意を求める。もし何も言わなければ最強になれたかもしれないけど、何も言わないままでは私は耐えきれずに壊れてしまっただろうから、結局これしか進む道が無かったんだと思う。あるいは、そう言って自分を許してあげないと、駄目になってしまうから。私が何もかも駄目にした。壊していった。それを、じっと黙っていてくれる貴方に今でも縋ってしまう私は、今でも貴方と最強になる夢を見ているのかもしれない。
ラベルだけでいいから欲しかったなあ、あの頃。今はラベルなんていらないから、引き出しの中身だけ寄越せって言ってるようなもんかな。それともあの頃よりも更に、また別の意味で、ラベルだけでも守らなくちゃいけないのかな。どうしても違ってしまう。違ってしまっているけれど、どうすることも出来ず、神様にも最強にもなれない私は、少女を卒業していく。いつか世界が壊れてしまったときに、どさくさに紛れて、大切なものを守りながら死んでいけたら。